矢野 雅也

About Masaya Yano

私の仕事は家具屋です。

お客様宅に訪問し、インターホンを押し、「はーい」とお返事をいただくと、第一声は「おおきに家具屋ですー」と答えます。
家具屋というと、一般的には家具を販売しているお店をイメージするでしょう。
しかし、私の言う「家具屋」は少し違います。店名前でも、ブランド名でもなく、自分自身が何者であるかという表現なのです。「家具のことなら何聞いてもらっても答え出しますので。」というプロとしての自分への戒めのようなものでしょうか。もちろん、家具と一言で言っても、大変奥が深いものです。それはどんな仕事も同じですね。だから、分からないことや、悩むこと、仕上がりに疑問を持つこと、毎日毎日問題だらけです。いつまでたっても完成はありません。
また、技術に終わりはありません。作ったり、直したり、運んだり、家具には色々な仕事があります。

今、家具修理の家具クリニックを運営しているのは、私ただ一人です。数え切れないほど家具の修理を御用命いただき、対応してきたそのノウハウをベースにお客様と深く関わり、そしてその言葉を職人言葉に翻訳して私自身が責任をもって職人に伝えます。ここを伝え間違えると、納め間違えてしまいます。「思ってたのと違う!」となってしまうのです。もちろん、こちらのセンスも重要です。例えば古い箪笥。ただ綺麗になればいいというものではありません。何も指示しなければ、修理のセオリーに則り、最高の仕事をしてしまうのが職人の性というものです。そこに時代感を残すために、修理し過ぎずに手を止めてもらわなければなりません。ここに、センス、さじ加減、それを表現する伝達力が必要になってきます。

ところがこの部分は何百件お仕事させていただいても、ゴールがありません。お客様が「わあ、綺麗になりましたね!」とお喜びいただいても、意外と毎回納得してません。納得いかないのに納めるのか?と言われてもそこはビジネスです。お客様がいいと言えばいい、と割り切らないと、一生納品できなくなります。

家具の修理における二つのポイント

いつも、いつまでも、BESTと思わない姿勢が大切だと思うし、そういう意味で、いつも本当に納得いかないのです。何故私が、この手間のかかる儲からない「家具の修理」を続けているのか。ポイントは二つです。
一つは、「家具屋」と名乗るために必要な鍛錬が出来るからです。同じ家具でも100人100様の傷み方があります。もちろん直し方も百様です。細かな仕事も、大きな仕事も関係なく、この日々の頭を悩ます修理の仕事のその先に、家具流通が変わっていく起爆剤があると信じています。
もう一つは、これまでたくさんの家具を直し、多くのお客様と接してきて分かったことがあります。「人を大切にする人はモノを大切にし、モノを大切にする人は人を大切にする」という、真理です。人を大切にする人はモノを大切にする。人を大切にするということは、疎遠にならないよう、常に気配りをして大切に丁寧に暮らしています。家具の修理のお客様はいい家具だから直すお金持ちに限定されるわけではありません。「丁寧に」暮らしている方なのです。傷んだものを放置せず、モノそのものに魂を感じ、きちんと維持管理されています。こういう考え方、生き方は、モノに対しての姿勢にも現れているのです。

たかが家具、されど家具

また、モノを大切にする人はそのモノ自体に魂を感じ、モノの向こうにそれを提供した生産者、販売者、そしてそれを授けてくれた家族、友人の姿を、つまり、モノの向こうに人を感じています。こういうお客様の思いに触れるにつけ、本当に素敵な皆様で、この仕事に携われる喜びや、自負の気持ち、責任感が増していくのです。たかが家具、されど家具。家具を修理しながら使うということを当たり前の家具流通にすることにより、人と人がお互いをリスペクトし合える世の中にするべく、焦らず、弛まず、怠らず、一歩一歩進み、今日、この目の前の一件の仕事が世の中を良くしていくに違いない、と信じて努力をし続けるのみです。

家具を通じて、世の中が少し良くなることに貢献できれば、自分がここに存在し、生まれてきた意味を感じながら生きていくことが出来ると思います。
これからも一人一人のお客様、一件一件のお仕事を愚直に頑張ろう、改めてそういう決意をさせていただき、終わりとさせていただきます。
ありがとうございました。